GRヤリスの4WDシステムとRCオプションのトランスファー詳細解説(2)

今回もGRヤリスの等速トランスファー関係の詳細解説です。

まず等速でない通常のトランスファー。これは前後の最終減速比をあえて変えることによりITCC(電子制御カップリング)を常に滑らせ、その結果リア寄りのトルク配分を生み出しています。そして等速トランスファーはリアの最終減速比のちょうど逆のギア比でそれを打ち消して等速にしています。そのギア比は以下の図のとおりです。

ここで注意が必要なのは、センターデフ方式の4WDとは違い、前回解説したようにフロントの最終減速比に関係なく基本的にはフロントドライブシャフトが1回転するごとにリアが約1回転するというところです。それを踏まえて計算してみます。

まずノーマルトランスファー。減速比0.436とは分数で書くと17/39のことです。同様にリアのファイナル2.277も分数で41/18です。

なので (17/39) ✖ (41/18) =  697 / 702  ≒ 0.992877

フロントのファイナルを1とした場合、リアのファイナルは0.992877となります。前後でおよそ0.007の差、つまり0.7%の前後回転差があります。ファイナルは数字が小さければ小さいほどタイヤが速く回るので、リアタイヤが0.7%速く回る(疑似過回転する)という計算になります。

これが等速トランスファだと減速比0.439(18/41)になるので、先程の計算式に組み込むと

(18/41) ✖ (41/18)  =  738 / 738  = 1

フロント1に対してリアも1なので、前後等速ということになります。

ここで気になってくるのがITCC(電子制御カップリング)の滑り制御です。ご承知の通りGRヤリスには3つのトラクションモードがあり、ノーマルで60:40、トラックで50:50、スポーツで30:70です。しかしGRガレージからの内部的な情報によるとITCCを100%ロックした場合の理論的限界値は20:80と言われています。つまりモードがどれであろうとITCCは常に滑っているということになります。また報道で公表されている通り前後タイヤのスリップ率等の複合的な要素によって同一モードでも常にロック率は変動しています。モード選択を行っても機械的なトルク固定とはならないのが本当のところです。

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そこで等速トランスファを装着したとして、果たしてユーザーが期待しているような常にITCCが100%ロックという制御になるでしょうか。等速トランスファは機械的なパーツであり、ITCCのソフトを書き換えるパーツではないため、そうはなりません。あくまで純正の制御の範囲内で各モードでトルク配分制御を行うでしょう。ただしスポーツモードに関してだけはいくらITCCがロック率を高めても前後の回転が1対1なのでリア寄りのトルク配分にはならず、等速トランスファを装着した場合は最大で50:50にしかならないという説明がなされているのだと思います。

そして等速トランスファーのメリットとして巷でよく言われている「ITCCの滑りが無くなるので熱的に有利」というのも、私個人の意見としてはかなり疑わしいと思っています。というのも等速トランスファーを装着していないどのグレードのGRヤリスも、ただまっすぐ走っているだけで常に発生している0.7%の前後タイヤの回転差を常にITCCが滑って吸収しているからです。ほぼ常時滑っている前提で設計開発されたITCCがもしそんなに熱に弱いなんてことがあったら大変なことになります。RC以外のグレードでサーキットやダートを走ったら全部ITCCがぶっ壊れることになってしまいますよ。

そのあたりの解釈は、どうも通常のセンターデフ方式の4WDと混同されている気がしないでもありません。

GRヤリスという車を100%楽しむためには、30:70のスポーツモードを最大限活かせるようにあえて等速トランスファーを装着しないほうが良いのではないでしょうか。個人的にはそう思います。

 

GRヤリスの4WDシステムとRCオプションのトランスファー詳細解説(2)” に対して2件のコメントがあります。

  1. 匿名 より:

    全開走行繰り返すとitccダメになるってことですよ。

  2. Coupe-9 より:

    全開で走るなら等速トランスファーが良いですね、但しトラックで50:50、スポーツで30:70だったのがスポーツでトラックと同じ50:50になりますが、パートタイム4駆と同じく流れ気味にはなります、またノーマルトランスファーでもジェイテクトのITCCは壊れません、温度保護が働きFFになると思います(長時間全開にしないと大丈夫)

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