プリウス暴走事故、フロアマットが原因?

プリウスが暴走し3人が死亡したという事件についてですが、12/10に警察からのリークという形で足元のフロアマットが純正品と社外品の二重になっており、それが原因で暴走した可能性があるという報道がなされました。

私はその説にかなり懐疑的です。

事故発生から一週間、今頃そんな事を発表するなんてあまりに胡散くさすぎます。しかもこれは正式な発表ではなくあくまで「可能性がある」という話で、事故当日は「足元に運転操作の妨げになるようなものはなかった」という発表がされていたにも関らず、今更感が否めません。

ここで30プリウスのブレーキシステムについて少々突っ込んだ話をしてみます。

日経BPに詳しい記事がありましたので、まずそのリンクをご覧ください。

http://techon.nikkeibp.co.jp/article/FEATURE/20100208/180034/

多分自動車業界以外の一般の方にはちんぷんかんぷんだと思います。正直私もちんぷんかんぷんに限りなく近いです。しかし20プリウスの完全ドライブバイワイヤ方式から、フェイルセーフとして電源断時にペダルの踏力がブレーキに多少なりとも直接伝わるというように、さらに安全性に配慮された方式に変更されています。

 

そういった安全性向上策のひとつとして、アメリカで訴訟にまでなった「急発進疑惑」に対するトヨタの回答としては「ブレーキオーバーライド」システム(BOS)があります。これは物理的に(フロアマットの影響などで)アクセルが踏まれた状態であるとセンサーが感知している場合でも、同時にブレーキペダルが踏まれた場合にはスロットルを閉じてブレーキが優先される制御で、従来の電子スロットル系の2重フェイルセーフに追加される形での更なるフェイルセーフです。

 

アメリカでのフロアマット訴訟への回答としてブレーキオーバーライドが存在しているにも関らず、そのフロアマットが原因でブレーキが効かなかったという可能性がいまさら出てくるというのは明らかに本末転倒でおかしな話です。

 

そして調べていくうちにブレーキだけの問題だけではなく、30プリウスのシフトレバー制御とパーキングブレーキシステムについても色々問題があることがわかってきました。今回は巷でよく言われている、「ブレーキが効かなければサイドブレーキ(プリウスの場合は足踏み式パーキングブレーキ)を使えば良かったのではないか?」、その部分について検証してみようと思います。

 

これは30プリウスのシフトレバーです。従前の物理シフトレバーとは違い、完全に電子式制御です。それが何を意味しているのかというと、一旦Dレンジに入って走行しはじめた場合、ドライバーがN(ニュートラル)やB、はたまたRにシフトを操作したとしても車両側のシステムがそれを認識しない限りDレンジからは抜けないということです。

 

何故かプリウスに関しては極端に情報が少ない印象があるのですが、30プリウスでのドライバーの意図に反する動作のひとつとして「車両停止、運転手降車後のクリープ現象による発進」があるようです。

 

これは一体どういうことか、順を追って説明します。

 

例えばドライバーが30プリウスでコンビニ等に立ち寄り、エンジンを掛けたまま(と言うと語弊がある)というか、イグニッションをオフにしない状態で車から降りる状況を想定してください。

 

本来であればシフトレバー右上のPボタンを押して降りるのが正しい手順なのですが、シフトをニュートラルにした後に足踏み式のパーキングペダル(従前で言うところのサイドブレーキ)を踏んで降車したとしたら、通常は勝手に車が動き出すことはないものと思い込んでしまいます。

 

ところがドライバーがニュートラルに入れたと思い込んでいても車両側でニュートラルを検知していない場合、シフトレンジはDになったままです。しかしプリウスはハイブリッド車ですのでそのような低速時にエンジンは掛かっておらずモーターのみの駆動状態ですので、ドライバーはメーターパネルのシフトインジケーター以外では車の状態を知ることができません。そして車両が止まっている状況=車は動力が伝達されていないものだと思い込んでしまいます。

 

状況としては間違いなく車は停止しているし、足踏み式パーキングペダルもきちんと踏み込んで車をロックしている、感覚的にそう判断して車から降りてしまうのはある意味仕方がないことかもしれません。

 

しかしその状態では物理的にパーキングブレーキは作動しているものの、停止していたエンジンがバッテリーチャージの為かなにかの制御で始動してしまうと、モーター+エンジンの力でのクリープ現象が発生します。むしろ一説にはクリープ現象を発生させるためにあえてそういう制御をしているという話さえあります。プリウスのパーキングブレーキはあまり強力ではないので、結果トルクに負けて勝手に車が動いてしまう事象が発生するという報告がちらほらと出てきました。もちろんこれ自体は車の欠陥ではなく、ドライバーの誤操作が原因です。

 

調べてみると30プリウスのパーキングブレーキは唯一プリウスの操作系としては一応物理制御をしているようです。これは私個人としては「トヨタの良心」であると思います。なぜ良心かと言うと、パーキングブレーキとシフトレバー右上のパーキングスイッチの性格の違いを考えればわかります。パーキングスイッチは電子制御オンリーであり、その動作もブレーキではなく駆動系のロック(それこそATで言うところのパーキング)であり、ドライブバイワイヤーの制御に組み込まれています。それに対して足踏み式パーキングブレーキはドライブバイワイヤーに完全に組み込まれているわけではない、唯一と言って良い、ドライバーが直接物理的に操作できる最後の砦だからです。

このペダルがパーキングブレーキです。これを踏み込むと昔ながらの自動車同様にワイヤーが引かれてリアブレーキの制動をします。

これがそのワイヤーの末端です。T字状の末端には後輪左右のブレーキにつながるワイヤーが接続されます。ここだけは通常の自動車と同じ構造ですね。

 

ただしプリウスのパーキングブレーキはインドラム方式ではなく油圧方式であるためそもそもの効きが弱く、そして当然リアブレーキもVSCの統合制御下に置かれているため仮に走行中にフットブレーキを踏みながらさらにパーキングブレーキを踏み込んだとしても、残念なことにパーキングブレーキの差動力が上乗せされることはなく、パーキングブレーキで発生させようとしている制動力分がフットブレーキの作動圧力から減算されてしまい、従前の自動車のサイドブレーキのように「無理矢理力任せに引いて走行中でもロックさせる」といったことはできないのです。実際に試した方がそう言っているのですから間違いありません。調べに調べた結果youyubeで動画を見つけました。詳しくはその動画の投稿者本人様のコメント部分を丹念に読んでみてください。

この動画やコメントから導き出される結論は、プリウスのドライブバイワイヤー制御に万が一何らかの不具合が発生して勝手に加速しはじめた場合、足踏み式パーキングブレーキの物理的制動力だけではとても車を停める事はできないだろうということです。そもそもパーキングブレーキは一度目は奥まで踏み込みめるものの二度目は解除動作となってしまうので、特殊なドライバーでない限りパニック時に制動目的で操作するのは事実上ほぼ不可能でしょう。

 

ではこの足踏み式パーキングブレーキは設計上のミスかというと、私が最初に「トヨタの良心」と書いたとおり、決してそうではありません。

 

もしこのパーキングブレーキ自体がドライブバイワイヤのシステムに組み込まれていて電気的に制御されていたとしたならば、ドライバーは電子デバイス以外の方法で車を制御する方法がひとつも無くなってしまいます。電子デバイスは完璧ですか?もし完璧であるならば、あなたがお使いのパソコンは絶対に不具合が発生しないということになります。そんな事は絶対にありえません。複雑に統合制御されている電子デバイスが、経年変化をものともせず何年も誤動作しないと盲信する人のほうが私から言わせればおかしいのです。

 

もちろん誤動作の方向性は「危険」ではなく「安全」方向に動作するよう設計されていることは間違いありません。ですが電子制御スロットル部分だけに関してもプリウスは「二重」+BOSの三重でしかありません。自動車よりもはるかに安全性が重視される航空機でさえ、それを運用している人たち全てがフライバイワイヤの誤作動という可能性も含めた上で日々安全性の向上に努めています。なのにドライブバイワイヤの自動車が従前の物理制御の延長線上の自動車と同等にメンテナンスフリーであるというのはかなり無理があると思います。

 

ならば車は5年ごとに買い替えろという事になるのでしょうか。確かに安全の為にはそういう選択肢もあるのでしょうが、古い車を手入れしながら大事に使うことが最大のエコロジーであると考える私にとってその考え方は到底受け入れられるものではありません。

 

タクシーにはドライブレコーダーも搭載されている筈ですので、ドライバーの権利を保護するためにはその公開も視野にいれて事故原因の調査をしっかりとしていただきたいものです。

 

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