スパイクタイヤ大騒動 4 基地外社長と世の中なめてる走り屋ギャル

さて前回はどこの誰かは存じませんが社長と呼ばれている人物から私個人を特定して脅迫されたので生命の危険を感じ、またこんな無法なことが許されてはいけないという平和を愛する心が、私を110番通報させたところまでです。

まあぶっちゃけていうと私もくどい、というか、「タイヤいらないので」「ああそう」で済ませて、変な人とは関わり合いにならないのが一番賢いのだという事はわかっています。だけどそんなに賢かったらそもそも車屋だなんてはじめてないでしょう。

夜中に事故ったと電話が来ればとんでいき、雪山に刺さって出られなくなったと聞けば冬山装備を着込んでロープとスコップ持って助けにいき、車が壊れたと言われれば雨降りの中でも分解修理して、こんなに車好きな人たちを応援したくて親切で、その割にすぐああでもないこうでもないとなぜか文句を言われ悪口を立てられる。こんな損な役回り、どう考えても賢い人がやることではありません。

おっと話が脱線しました。110番と話をしていると玄関のチャイムがピンポーンとなりました。この時点で午後2時40分。一体誰だろう?(笑)

やっぱり交番の警らのお巡りさん二人でした。

「110番あって来たんだけれど、一体どうしたの?」

「実はかくかくしかじか、要するに電話で脅迫をされて生命の危険があるので被害届を出そうかと」

「ふーん、それでまずそのみいちゃんって子とあなたはどういう関係なの?」

「それはですね、ネットで知りあって1回しかあったことはないんですけど・・・・・って、何もわざわざうちの自宅の前でそんな話しなくてもいいじゃないですか。まるで俺が悪い事をした人みたい。それにみいちゃんは事件の関係者だけれど加害者じゃないから基本的には無関係ですよ?どうせ被害届出すんだから四の五の言わずさっさと署の取調べ室に連れて行って調書とってくださいやがれ」

「いやまず事件のあらましを聞いたり、犯罪性を確認したり、相手の言い分も聞かなきゃならないし」

「だからそれをここでいちいち話しても、また取調べ室で調書取る時に別の人に同じ話をさせられるんでしょう?もう被害届を出すのは確定なんだから二度手間になることをさせないで、警察署に連れて行ってください」

「・・・・・・・(困惑)」

困惑する気持ちもわからないではない。普通の人なら警察が来てくれたら安心とばかり、事件の内容を必死に伝えるだろう。だが俺は知っている。これは第一段階の選別なのだ。

まず派出所の制服勤務のお巡りさんが現場で事件の事件性(?)を精査して、「パトロールを強化しますから」とか「現段階ではまだ警察は動けないので、これ以上何か起きたらすぐ電話してくださいね!」と通報者を納得(安心でもいいが)させることが、警察の限られた人的リソースの中で仕事の効率を最大限に有効活用するためには必須なのだ。俺みたいな善良な一市民から俺みたいな基地外までいちいち全部まともに相手していたら警察官が過労死する。なのでとりあえず話をきいて、それから・・・・・という感じで相手が冷静になるのを待って、ポイント稼ぎにならないような軽微な揉め事はやんわりと諭して警察の仕事をテキパキ進めるというのが彼らの基本戦術である。

そのかわり彼ら警察官はポイント3倍セールになりそうなことには何の躊躇もなく強大な国家権力を発動する。昼間、ただ大型店の駐車場に停めてあった自分の車にただ乗ろうとした善良な一市民である俺を見つけた警ら中の警察が、俺の顔が相当悪人顔に見えたのかなんなのか知らないがパトカーで全速力で迫ってきていきなり職務質問をしてきたのにはまいった。当然警察の方に喜んでご協力するのは市民の努めですから、言われたとおりに何でもいたしましたが、最終的には車の中もすべて調べられましたよ。その車も、いかにも悪そうなフルスモセルシオとか暴走族チックなベタ車高シルビアとかじゃなくてただのノーマルの軽自動車ですよ。俺は犯罪者か!こんなの任意のご協力での職務質問の範囲なんてとっくに踏み外してると思うのは俺だけなのだろうか?

やられっぱなしだと忌々しいので今度職質されて「やましいことが無いなら見せられるでしょう?」と言われたら俺も「あなたのマイカーもどこか壊れているかも知れないから見せてくれる?」と切り返してみよう。絶対に「何で見せなきゃならないの!?」と怒るだろうから、こっちも「だってやましいことが無いなら見せられるでしょう」と言い返してやるのだ。むこうが仕事で職質してくるなら、こっちも仕事でおたくの愛車の無料点検サービスをしてやる(笑)。どっちも任意だから何の問題もないはずだwwwwwww

警察の楽しいお話になるとすぐ脱線するのが俺の悪いクセだ。だが脱線したくなる気持ちもわかって欲しい。この警らのお巡りさんは結局「タイヤを見せろ」だの「古物商の手帳を見せろ」だの現場到着から一時間もああだこうだと手間を掛けさせやがった。しかもうちの前で!!

ここで補足説明をしておくのを忘れていた。脅迫罪というのは親告罪(被害者が訴え出てはじめて犯罪になる)ではなく、行為があった時点で犯罪が成立する罪なのだ。だから加害者はどこの誰かは存じませんが社長と呼ばれている人物で、被害者は俺。そしてこれは刑事事件である。

事件の種類は民事事件と刑事事件の大きく二つに分かれていて、警察は民事不介入という大原則があり民事事件には絶対に関わらないのだ。本件のスタートラインはみいちゃんと私のスパイクタイヤの売買という民事ではあるが、本題は脅迫をされたという事実一点のみであるので、タイヤがどうこうとか、古物商がどうこうとか、みいちゃんとはどういう関係とか、そんな民事の部分につっかかってきていちいち時間稼ぎするよりも、加害者への事実確認が最優先なのではないか?

刑事事件と関係のない枝葉の部分であれこれ難癖をつけられ、自宅の前で騒がしくしていたので心配した大家さんも何か事件かと思って様子を見にきてしまう始末。しかも、気がつくと今度は別の捜査車両が2台も来て、私服刑事が3名様追加されました。これではどう見ても私が凶悪犯人ではないか(笑)

だが、その3人追加の私服の中で一番階級の高いと思われる、眼光の鋭い刑事部長さんはさすがに要領が良かった。私の説明と制服警官の説明をひとしきり聞いた後、「そんなの署で事情を聞いて、まず相手のどこだかの社長さんに警察からちゃんと注意の電話してあげればいいじゃない」と、やっと話のスタートラインにたどり着いた。やはり経験豊富な警察の方はあうんの呼吸をわかっていらっしゃる。と思ったのは勘違いだったのが後に判明する。

というわけで刑事部長の指示の元、めでたくパトカーではなく別の若い私服刑事の方の捜査車両に乗せていただき、ようやく滝川警察署の取調べ室に向かった俺だった。この時既に午後3時30分過ぎ。みいちゃんから電話が来てから既に2時間以上が経過している。

だが今夜のエンドレスワルツはまだまだ終わらない。読んでいる人も飽きてきたでしょう。俺も飽きてきたので誰かリポビタンD差し入れしてください。

続く

この作品はフィクションであり、実在する人物、団体等とは一切関係ありません

 

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