スパイクタイヤ大騒動 6 基地外社長と世の中なめてる走り屋ギャル

今日何度目かわからないが私がまた同じような話を取調べ室で巡査としている間、いつの間にか実はどこの誰だか存じませんが社長と呼ばれている人物ともう一人みいちゃんが滝川警察署に到着しており、それぞれ別の場所で事情を聞かれていたという事を知るのはもう少し後になってからだ。

そこでどこの誰だか存じませんが社長と呼ばれている人物がどんな話を警察にしていたのかは今でもよくわからないのだが、実はこの時点でとても手ひどい裏切りをみいちゃんに食らわされていたというのを私はまだ予想だにしていなかった。

これまで私は一被害者で善良な一市民として警察から対応を受けていたのだが、何故か警察の取調べの対応がだんだんと厳しいものになってくる。

――――さすがに実は俺も元暴走族みたいな感じで警察にマークされていた若かりし日々の過去とか、私が管理人をしている某SNSの湾岸新港コミュニティという集まりがどういう類の反社会的(笑)ネット暴走族サークルなのかとかが、みいちゃんあたりから露見したのかな?――――

ちなみにここで言う暴走族というのは、私は常日頃から自虐的な意味で自分の事を暴走族と言っているだけであり、こういう↓類の暴走族に参加したことは残念ながらただの一度もないことを明言しておく。

 

こういうのとか

こういうのも一度もない。

でも上記のようなバイクとかに乗った若い子たちを見かけると、つい「おー、頑張れよ~」と手を振ってしまうのは歳をとった証拠だろうか。それにしても昨今の一般的な若者は車やバイクに興味がないどころか、仕事上で「運転して」と言うと、「嫌です。人でも轢いたらボクの人生が終わっちゃうじゃないですか!」などと普通に答えるらしい。そんなのからみれば、上の画像のような若者の方がよっぽど若者らしいと思うのだがどうだろう。

なにせ自分の感性がすでにそういうレベルなので、しなくていいお節介というか、車やバイクに興味のある若者を見かけるとつい余計なお世話をやいてしまうのは私の悪いくせなのだ。今回の騒動だって、なにもここまでみいちゃんに親切にしてあげる必要なんてなかったのかもしれない。

そんな事を考えていると、先ほどの刑事部長が取調べ室に入ってきた。そして、これから私とどこの誰だか存じませんが社長と呼ばれている人物を接見させるというではないか。

まあ、向こうが会いたいと言っているのであれば断わる理由もない。刑事部長からは何度も何度もけんか腰にならないで落ち着いて冷静に話をしてくれと念を押されたが、そんな事は言われなくてもわかっている。切れてないすっよ。俺キレらせられたらたいしたもんっすよ。こっちだって大人なんだから、初対面の方とは名刺交換ぐらいしますよ。・・・・・・と思って名刺入れを見たら在庫が一枚も無かった。まあいい。どうせ基地外とは話し合いにならないのは最初から織り込み済みだ。自分がきちんと自分であればそれでいい。

狭い第一取調べ室には私、刑事部長、若い優秀な刑事さん、巡査、その他刑事や美人女性刑事さんなどなど多数のギャラリーでぎゅうぎゅうにごった返していた。私は相変わらず指定席のパイプ椅子に悠然と腰を掛けて待っていると、どこぞのちんぴら然とした男が入ってきた。歳の頃は私と同じくらいだろうか。

挨拶はあくまで大人の常識であり礼儀である。私はパイプ椅子から立ち上がろうとした。すると刑事部長があわてて私を制止しようとする。暴れるとでも思われたのだろうか。まったく、俺も安く見られたものだ。私は左手でその刑事部長を制して、会釈しながらこういった。

「はじめまして、アンリミテッドのケインと申します」

そしてポケットから財布を取り出し、名刺入れから名刺を出そうとがさごそしてみた。すると案の定どこの誰だか存じませんが社長と呼ばれている人物はこう言ってきた。

「名刺なんか交換する気もないし、出されてもそんなの必要ない」

そうですか。まあそうだろうとは思っていたけれどね。私は肩をすくめて再びパイプ椅子に腰を掛けた。

「・・・・・で、わざわざ札幌からいらっしゃるという事なのでお待ちしていたのですが、さてどういうお話なのでしょうか。確か私に直接会って謝罪する気は無いというように伺っていましたが」

「なんで俺が謝らなければならないんだ。あんたのせいで今日一日まったく仕事にならなかった。話にならないからどんな奴なのか顔を見にきたんだ」

まったく物好きな奴だ。

そしてどこの誰だか存じませんが社長と呼ばれている人物が主張するには、自分はみいちゃんからスパイクタイヤの画像を見せられて、自分の価値基準で「これはあまり良くないものではないか」と伝えただけだ、そのあとはみいちゃん本人が買う買わないを決めることで俺は何も関係ないだろう、本人がいらないって言っているんだからそれでいいでしょう?ということだった。

私は二つ反論した。ひとつは、今回の騒動の本題は、あなたが私を脅迫したことによる刑事事件であり、民事であるスパイクタイヤの売買とは直接関係が無いこと。

そして二つ目はあなたのいいかげんな入れ知恵で、みいちゃんが間違った知識を覚えてしまうのは友人として看過できない。だから電話先でもタイヤの品質について説明をしようとしたし、現物を見せにいっても良い、保証を付けても良いとまで言った。そこまで私が自信をもって扱っているスパイクタイヤの品質にケチを付けられて、はいそうですかとそのまま引っ込むようではこちらの信用というものが失われてしまう。それを看過するわけには行かない。なのであなたはどういう基準であのフルピンを見て「あまり良くない」と判断したのか、そこをきちんとお聞きしたい、と努めて冷静に言った。

するとどこの誰だか存じませんが社長と呼ばれている人物はしどろもどろになりながら反論してきた。要するに、タイヤやピンも減っているし、ピンもカップピンではなくてマカロニだし、自分も昔フルピンを作った事があるがフルピンっていうのは260本くらいピンを打ち込んでうんぬん・・・・・

「全然お話にならない」

私はそう断言した。

「これがチップピンならともかく、カップピンなら良くてマカロニピンはダメだと言うのはあまりにも言い過ぎだ。そしてみいちゃんのような初心者が練習に使うのには十分過ぎる程の性能や価値があるというのは、昔自動車競技をやっていて今もA級ライセンスを持っている私が、あなたよりも遥かに豊富な経験に基づいて保証しているではないか。そもそもあなたはふたことめにはフルピンフルピンと言ってこのスパイクはピン数が少ないからダメみたいなことをいうが、あなたはさっきフルピンとは260本くらいピンを打って、と言いましたよね。MT-14で全ブロックピンを打ち込んだ場合のピン数は304本であるし、以前のJAF競技でのフルピン規定はタイヤ一本あたり上限230本まで。細かく言うといわゆる2・1・2・1でピンを打ったら228本だ。脱スパイクタイヤ運動の頃の市販スパイクなんて、スノータイヤの両端一列ずつにチップピンが打ってあるだけで100本あるかないかくらい。それと比べたらラリータイヤにマカロニピンなら十分フルピンだろう」

「いや、俺が作ったのは14インチだから・・・」

「それにフルピン作った事があるのならわかると思うけれど、コンマ1秒を競う競技で使うのでない限り、肝心なのはピンの本数よりも、ピンが抜けるか抜けないかの耐久性でしょう?私はこのスパイクをみいちゃんに売る前に、ピン一本一本すべてぐらつきの確認をして、これなら大丈夫だと自信を持って勧めている。買えなんて強制したことは一度もないけど、今どきこの値段でこんな程度の良いタイヤが買えないことくらいあなただってわかるでしょう?それを画像を見ただけで良くないタイヤと言われたら、こっちもちょっと黙ってはいられないな」

するとどこの誰だか存じませんが社長と呼ばれている人物は、刑事部長に向かい私を批難し始めた。

「ね、この人はずっとこんな感じで上から目線で話すのさ。なんで初対面の人にこんな偉そうな物言いをされなきゃならない訳。ひどく失礼だと思わない?」

すると巡査の一人がこう私に聞いてきた。

「それでケインさんはこちらの方に、口だけかとかヘタレとかそういう事を言ったんでしょ?」

「ええ言いましたよ。だって引きずり回すだとかなんとか威勢のいいことを言ったくせに、いざとなったらそれを言ったか言わないかわからないとか逃げるなんて、口先だけのヘタレそのものでしょう」

「あのね、例えば大学の教授が学生に対して『お前はこんなこともわからないのか』と言っても名誉毀損罪になるの」

「はあ?そんなの俺の知った事じゃないよ。なるんだったら俺を逮捕でも書類送検でも起訴でも何でも勝手にすればいいでしょう。だけどこっちはこっちできちんと脅迫の方の立件をたんたんと進めてもらわないと困る」

すると見るに見かねた刑事部長が、もういいわかった!と言って、間に割り込んできた。そしてどこの誰だか存じませんが社長と呼ばれている人物を第一取調べ室から退出させた。ほどなく次々とその部屋の様子を伺っていた刑事や巡査たちも扉の奥へと消えていった。私はふたたびたった一人きり、第一取調べ室に取り残された。

どうも話がおかしい。

少なくとも数時間前の記憶では、みいちゃんは今後も私と今までどおり友好関係を維持していきたいという事でお互い合意していたはずだ。であるならば、みいちゃんは社長に対してても警察に対してでも私に対してでも、事が穏便に済むように何らかの努力をしてしかるべきではないのか。少なくとも、現状であのどこの誰だか存じませんが社長と呼ばれている人物をなだめることができる立場にいるのはみいちゃんだけだ。そしてそれが関係者全員の利益に繋がるはずだ。だがどう考えてもみいちゃんがそういうアクションを起こしているような気配が全く感じられない。もしかすると彼女は自分には関係のない出来事だとでも思っているのだろうか?私はみいちゃんの真意を計りかねていた。

こうなったら直接本人に聞くしかない。何故か電話は繋がらない状態が続いているのだが、それでもメールならちゃんと私が別に怒っているわけでもなく、いろいろな人に誤解されて困っているという事を伝えることができるだろう。そこで私は一人きりの寂しい第一取調べ室から、何か誤解があるようなですが大事な話がありますので電話をください、というような内容のメールを送った。直接話をすれば、彼女の置かれている立場も果たすべき役割も理解してもらえるに違いない。そうすればいろいろな誤解もとける筈だ。そう期待しながら私は暫し返事を待っていた。

すると数分後、血相を変えた巡査が第一取調べ室のドアを開けて飛び込んできた。

「ケインさん!今みいちゃんさんにメール送りましたか!?」

「ええ、送りましたよ?」

「あなた何考えているんですか!!!!」

「はあ?」

「事件の取調べ中に当事者同士が連絡して良いわけないでしょうっ!」

俺は首をかしげた。

「いやいやお巡りさん、この事件の当事者っていうのは私が脅迫の被害者で、加害者はどこの誰だか存じませんが社長と呼ばれている人物。みいちゃんは当事者じゃないでしょう」

すると巡査は一瞬虚を突かれたような表情を浮かべたが、国家権力がいちチンピラに論破されることがあってはならないとばかりに反論してきた。

「被害者加害者の関係じゃなくても、きっかけはタイヤの売買なんだから当事者でしょう!」

「いやそっちの民事の話は売買不成立ということでとっくに決着ついているし。当事者っていうよりもまあ関係者だとしても、そもそも私はみいちゃんの友人だし、メールくらい送ったって何の問題もないでしょう?」

すると巡査は私が予想だにしなかった、衝撃的な台詞を口にした。

「それはストーカー行為になる恐れがあります」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・。ス、ストーカー!?

 

まだ続く(笑)

 

この作品はフィクションであり、実在する人物、団体等とは一切関係ありません

 

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