スパイクタイヤ大騒動 9 基地外社長と世の中なめてる走り屋ギャル

警察署での勾留(?)から一夜明けて。告訴するとなるとスパイクタイヤを預けてくれた先輩のところにも警察が行くと事になる。そんな恩を仇で返すような真似はしたくない。とりあえず事の顛末を知らせる為に、俺は先輩に電話を掛けた。

「先輩、ケインです。実はスパイクタイヤのことでちょっとお話が・・・」

「おう、あれもう売れたのか?高く売れたのか?」

「いえ、実はかくかくしかじかこういうことになりまして・・・・(略)」

先輩は思いっきりため息をついてこう言った。

「おまえはまったく、何をやってんのよ・・・いや別に良いけどさ」

「本当にすみません」

「そんな訳のわからない奴を相手にしてるから、そういう面倒くさいことになるんだぞ。キミも、もうすこし付き合う人を考えなさいよ?」

「おっしゃる通りで申し開きのしようがありません。が、うちの様な弱小車屋に来る様な人はだいたい他で出入り禁止になった人とか、わけのわからない飛び込みの客とかばかりで、そういう人でも相手にしていないとお客がいなくなってしまうのです。痛しかゆしなんです」

「言ってる事はわかるけどよ・・・いやそれよりも。つーことは、まだあのフルピン手元にあるんだな?」

「はい」

「いや実はよ、俺の友達で86買った奴がいてな」

「86ってあの新しいほうの86ですか?」

「そう、新車の方の86。それでそいつがスパイク履きたいっていってフルピン探しているんだわ。つーことで、あのフルピン返してもらってもいい?」

「いいも何もそういうことでしたら、ぜひぜひ先輩の方で役立ててください。こっちでこれ以上ゴタゴタして、あんなにいいフルピンを訳のわからない所に流しちゃうのも面白くないですし」

「そしたら明日取りに行くから、よろしくな」

電話を切ってからしみじみと思った。この先輩はなんでいつもこんなにいい人なんだろう。感謝してもしきれない。俺は決して人付き合いが上手なほうではないのだが、この先輩といい、他の友人知人といい、特定の分野で名を成した大物が俺のような弱小車屋にいつも目を掛けてくれる。その恩義を裏切るようなことはしてはならないだろう。であるなら、今回のスパイクタイヤの一件についても、先輩にこれ以上迷惑を掛けないためにはさっさと幕引きしてしまうのがやはり正解だ。自分のメンツも大切だが、他人からの信頼を裏切らないことの方がもっと大事である。昨日はつい熱くなって警察署で大暴れしてしまったが、やはりここはひとつ大人になって事態を収束させるべきであろう。

俺は考えをまとめてから。滝川警察署の刑事部長に電話を掛けた。

「昨日の件なんですが、冷静に考えてみたんですがこんなくだらない事であまりこれ以上騒いで、警察の方や色々な方にお手間を取らせるのは私としても不本意ですので、告訴を取り下げて穏便に解決したいと思うのですが・・・」

電話の向こうに刑事部長の安堵する顔が見えた気がした。

「そういうことでしたらこちらとしても喜んでご協力したい。相手の方の対応については安心してこちらに任せてください。ケインさんについては、再度調書を取らせていただきたいのでもう一度署まで来ていただけますか。日時は・・・来週の月曜日とかどうですか?」

「それで構いません。ところで話に行き違いがあったりして、後日民事で一方的に訴えられても困るので取り調べに付いては録音させていただきたいのですが、法的には問題ありませんよね?」

「いやいやそういうのはまあアレなもんですから、録音とかナシで」

アレって何だ?と疑問を感じつつも、やはり事件は現場ではなく取調室で葬り去られる・・・・もとい解決されるんだなあとしみじみと感じるのであった。

続く

この作品はフィクションであり、実在する人物、団体等とは一切関係ありません

 

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