スパイクタイヤ大騒動 2 基地外社長と世の中なめてる走り屋ギャル 

さて前回は、値段にしては極上でこれから5年でも使える良いフルピンをみいちゃんに用意できて「ああ、今日は良い事をしたなあ」と自分の親切さに満足していたところまででした。

では参考までに、フルピンを買う場合玉石混交で一番安価で入手できるヤフオクで、送料抜きの価格で当時どのくらいの価格で取引されていたかを見てみましょう。ちなみにここに書いた評価は私が数十年に渡ってフルピンを履き続け、限界まで酷使した走りをしてきた経験に基づくものであって、あくまで個人的な主観なので参考程度に読み流してください。

エントリーNo.1   4本32000円

ぱっと見はピンの出方も結構良いですし、ピン数も通常よりかなり多く打ってあるのでお買い得に見えますが、よく見るとブロックが多数引きちぎれている上、ピン抜けも結構あります。ピン抜けの原因は製作時のピン突き出し量とピン打ちのスキル、あと製作後にピンを馴染ませる慣らし運転をしたどうか、この3点がほとんどです。これだけピンが抜けているということは、これからもぽろぽろと抜け落ちていくものと思います。

エントリーNo.2  16200円ただし2本だけ

これは製作時に一周38ブロック×4列×1ブロックあたり2本ずつピンを打った、いわゆる304本仕様です。この304本仕様が一般的には195/65R15のMT-14にスパイクピンを打ち込むことのできる最大本数となります。それ以上打ち込むとブロックの強度が落ちてブロック欠けの原因になります。
ですがこのタイヤはピン抜けが激しすぎます。これも本気でワンシーズン使ったら、さらに相当ピンが抜けるでしょう。2本で16200円なので、4本あったとしたら32400円ですね。これは本当に使い捨てでも良いという割りきりがないと買えません。

エントリーNo.3 2本20000円

これは見た感じでは結構上物です。ピンの抜けがないのと、ぐらついている感じもあまりありません。これなら安定して5年は使えるでしょう。ところでこれはブロックに入っている横溝が相当擦り減っています。しかしMT-14の場合はブロックに刻まれているサイプにはほとんど意味はありません。フルピンは、スタッドレスタイヤと違いサイプ(横溝)でグリップを発生しているわけではないからです。路面が圧雪の場合は、ブロック自体が雪に食い込んで、押し固められた雪のせん断力を使ってグリップを発生します。そしてアイスバーンや氷上などでは、タイヤに打ち込まれたピンが刺さることだけでグリップを発生します。なので、ブロック上のサイプが残っていると、さもタイヤの状態が良さそうな印象を受けますが、サイプの深さ1ミリ程度が磨耗しても圧雪路での走行性能がほんの少し落ちるだけで、もっと他の要因の方が性能に大きな影響を与えます。それはブロックが千切れていないかとか、ピンが抜けていないかぐらついていないかとか、そちらの方がタイヤの良し悪しを判断する上では圧倒的に重要なことなのです。このタイヤが4本揃っていて4万円だったら即買いです。

ちなみに世界中を探して現在手に入る一番高性能なスパイクタイヤはミシュランのWRC用ですが、そのタイヤのブロックの表面にはサイプなんて刻まれていません。ちなみにこのタイヤのピンはマカロニでもカップでもなく、チップピンを太くしたような独特の形状です。

エントリーNo4  66000円4本

これは1ブロックに1本ずつピンを打ち込んだ152本仕様です。これはピンの抜けやブロックのちぎれがなく、見た感じではなかなかの上物だと思います。こういうタイヤのようにひとめ見て「良さそうだなあ」と思えるようなフルピンは、やはり当然のようにこのくらいのプライスになります。

エントリーNo5 9000円2本

最後のエントリーです。これも304本打ち仕様で、ブロックの横溝も残っており素人さん的には「結構ピンも抜けているけど、それでも4本で18000円ならお買い得じゃない!?」と思ってしまうパティーンです。
ですがピンの抜け方を見るとブロックが切れているわけでもないのにすぽんすぽんとピンが抜け落ちています。これはピンを打ち込んだ際の打ち込みスキルが低かったことの証拠です。このタイヤで全開走行をしたら、一日走るごとにピンがみるみると抜け落ちていくと思います。買ってはいけないタイヤの代表例です。

という主観で様々なフルピンを見てきました。一口にフルピンと言っても304本ピンが打っているからフルピンだ!ということではないというのがお分かりいただけたと思います。ちなみに昔JAF競技(氷上ラリーとかスノートライアルとか)でフルピンの規定が設けられていたときのフルピンタイヤの規定は、タイヤ1本あたり230本までが上限でした。なのでフルピンという言葉が一人歩きしていますが、それはピンの数でフルピンかそうでないかが決まっているわけではなく、あくまでラリータイヤに競技用のピンを打ち込んだものが通称フルピンと呼ばれていたと理解して構わないと思います。

もっとも私は普通の市販スパイクの39Rにチップピンを全ブロック2本ずつ打ち込んだ「フルピン」を履いていたこともありましたが、それが上記の定義に当てはまらないフルピンであったとしても、それはそれでかなり楽しめましたよ。

という感じでざざっとフルピンの良し悪しの見分け方を解説したところで今回は終了です。ちなみに前回、ピンの種類を説明しましたが、それそれのピンには抜け防止のフランジと呼ばれる広がった部分があります。それが1枚なのがシングルフランジ、2枚なのがダブルフランジと言われており、当然ダブルフランジの方が高価で、ピンは抜けにくいです。

シングルフランジのスパイクピン

 ダブルフランジのスパイクピン

次回はいよいよ本編にもどります。

この作品はフィクションであり、実在する人物、団体等とは一切関係ありません

スパイクタイヤ大騒動 2 基地外社長と世の中なめてる走り屋ギャル ” に対して2件のコメントがあります。

  1. shimesaba より:

    以前ピン打ちの規則性についてお尋ねした者です。
    ご無沙汰してます。
    いま実際にオールシーズンタイヤをベースにスパイクタイヤを製作してるんですが、ピンの突き出しが予定より多く3mm程度となってしまいました。
    バイク用だとネット上ではちょいちょい見かける突き出し量ですが、4輪用ではこれだと荷重に耐えられずピン抜け多発でしょうか…
    シングルフランジのピンを、中華製のスパイクガンで打ち込んでいます。
    また、スパイクタイヤの慣らし走行についても伺いたいです。色々と異なる意見が散見されますが、どういった路面でどの程度の距離行うのが良いとケインさんはお考えですか?

  2. unlimitedracingjapan より:

    >>shimesabaさん
    スパイクタイヤベースとして使えそうなオールシーズンタイヤがありましたか!?それは気になります。
    それはさておきピンの突き出し量は当時3mmは普通でした。完全に競技用途で5mmだと抜けるという印象です。しかしスタッドレスタイヤのない時代一般向けに完成品として市販されていたスパイクタイヤだと1mm~2mmといったところです。舗装路も走る前提だとピンが出すぎていると極めて扱いにくくなりますので注意が必要です。
    またピンにも規格が色々ありますので、根本がどのくらいタイヤに埋まっているかが抜ける抜けないのポイントになります。オールシーズンタイヤだとブロックタイヤとは違いトレッドのゴム肉厚が薄いはずですのでピン全長が短いタイプを埋め込んでいるのでしょうか。それだと抜ける可能性大です。
    そうではなくてきちんとタイヤのゴムに肉厚があって、ピンもきっちり埋まっている上での突き出し量3mmならなんともありません。
    慣らしに関しては、舗装路かアイスバーンを100~200kmほどゆっくり走れば十分です。

    結果が気になりますので、ぜひその後どうなったかコメントをお待ちしています!

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